|
1,女性鍼灸師グループの活動から
私たち「ぷれる」結成時のメンバーは、同時期に東洋医学(鍼灸マッサージ)を取り入れながらマタニテイライフと産後を過ごしました。その際、妊娠中のマイナートラブルが改善したり、産後の疲労回復に効果を発揮したなど、とても有用であることをそれぞれが実感しました。そして、妊娠・出産・産後の鍼灸の情報を、より詳しく入手し、自分たち女性鍼灸師が、その情報と技術を必要とする女性にも提供できればと考えていました。
毎年、11月3日は、一般と専門家が出会い、共に語り合い、学び合う「いいお産の日」イベントが開催されています。私たちも第2回「いいお産の日」に集って参加しました。 会場には、お産に関する情報がたくさん集まっていましたが、鍼灸のお産に関する情報は見られませでした。そこで、私たちは、妊婦さんをはじめ医療関係者の方々にも、逆子の場合には、お灸で治る可能性があることなど、鍼灸の情報提供をしていきたいと考え、1995年に女性と子どものための女性鍼灸師グループ「ぷれる」を結成しました。
自主グループの活動としては1997年から、妊産婦さんや女性を対象に講習会や講演会などを東京と横浜を中心に開いてきました。「母乳育児と東洋医学」というテーマでの明治鍼灸大学の矢野忠教授の講演会には、助産婦さんの参加も多く見られました。妊娠中の鍼灸治療の安全性や、有用性を知っていただきました、また鍼灸治療が母乳をめぐる産後のトラブルにも効果的であることなど、理解していただくことができました。
また、1998年は写真とパネルを用いて、「お灸で安産」展という展示会を行いました。6日間の展示期間中の来訪者数は、500名近くに達しました。このような5年間のグループ活動を通じ、多くの女性たちと接するなかで感じたことは、妊婦さんの”より自分らしい出産を!”と望む意識が高く、東洋医学への興味と期待も高いことでした。
2,助産院での鍼灸外来
私が、二人目の子どもを出産したのは助産院でした。助産院での出産は、妊娠中からのお灸に加え、陣痛が始まってからも、自分自身で施灸を続けました。陣痛の波の合間にも施灸をし、出産を迎えました。私は、妊娠中に施灸を継続したことは、つわりや腰痛が改善されたことはもとより、体調もよくなり、元気に出産を迎えることができたように思っています。
妊娠中から出産まで私に寄り添ってくださった助産婦さんは、その経過から、鍼灸治療やお灸に興味をもたれ、助産院の方針として、妊娠中のトラブルや出産までの一つの方法として鍼灸治療を取り入れることになりました。助産院の一室が鍼灸治療室となり、週に1日、鍼灸外来が始まりました。その助産婦さんは、妊婦自身が、精神的にも肉体的にもリラックスした状態にあるということが、出産への不安を和らげ、満足した妊娠生活に繋がると考えています。したがって、鍼灸治療により、妊婦の体調がよく、出産への不安が和らいでいると、分娩自体もスムーズに進むのではないかと考えておられるようです。また鍼灸外来は妊婦のマイナートラブルを緩和したりと、妊婦のニーズに適うものだったために好評でした。
鍼灸外来には妊娠中の腰痛や肩こり、背部痛、お腹のはり等を訴えて、様々な週数の妊婦さんが治療に訪れます。初産婦さんには助産婦さんの方から、「体調もよくなるようですよ、治療を受けてみたら」とのアドバイスもあるようです。鍼灸治療への期待はあっても、鍼灸治療を受けたことのない方は誰でも不安や、怖さが付きまといますが、そんな時に信頼関係がある助産婦さんからの助言は、妊婦さんにとって非常に心強く安心感を持っていただけたようです。また、同じ助産院の一室に併設されていて、女性鍼灸師が治療にあたるということも安心の材料になっています。
一度鍼灸外来を受診した妊婦さんは、「お腹のはりの改善が見られた」「なんとなく調子がいいみたい」「からだが軽くなるようだ」と、継続された方がほとんどでした。出産後も体調がよく、長く母乳育児を継続された方が多いようです。そして、妊娠中一度でも鍼灸治療を受けた方は、産後に腱鞘炎や腰痛を起こした時なども、気軽に子ども連れで治療に訪れていました。
3,妊娠初期からのツボ療法&お灸教室のメリット
私は、妊婦さんに、もっと自分のからだと向き合う時間を作り、自分のからだの声と胎児の成長の声を聴いてほしいと思っています。その点でも、自分のからだやツボに触れることから始めるツボ療法はうってつけの手段ではないかと考えています。
また、私は様々な場所で開かれている「妊婦のための母親教室」の中に、妊娠初期から出産時、そして産後のマイナートラブルの軽減と予防のために、セルフケアの方法としてツボ療法を取り入れて欲しいと願っていました。
そんな時、前述とは別のある開業助産婦さんとの出会いがありました。妊婦さんに、出産までの各種情報を提供して、妊婦さん自身が必要とするものを選択し取り入れやすいようにしていきたいと考えていた助産婦さんでした。助産院では、各種教室が行われ、その中の一つとしてさっそく「安産のためのお灸教室」がスタートしました
お灸教室は、妊娠週数によってあらわれやすい各種マイナートラブルへの対処法と、流早産防止を図り、快適なマタニテイライフを過ごすことができるようなツボ療法の説明とアドバイスを行っています。安全のため、胎児が安定した妊娠5ヶ月以降から妊婦さん自身による施灸を薦めています。そのひとつに「安産のツボ」ともいわれる三陰交(さんいんこう)があります。安産といいますが、お産のときの効果だけではなく、妊娠中のむくみや冷えや肩こりなどにも効果があります。
施灸する時間は、自分のからだと胎児に向き合い、からだからの声を感じる時です。また、出産まで施灸を続けることは、体調を維持し、胎児をしっかり育て、お腹に保ち、自分自身のパワーをつけていくことにつながると考えています。妊娠中のお腹のはりや、日頃の疲労回復を図り、体調をよくしていくことは、流早産の防止を図り、「自分の出産」をすることにもつながります。主体的に出産を考える動機作りにも役立つのではないかと考えています。
妊婦さんが施灸を継続するには、施灸するとなぜいいのか?どう違うのか?を理解してもらうことが必要です。ぜひ、身近にいる、産科領域に詳しい鍼灸師を見つけて、お灸教室を助産の一助として活用してほしいと願っています。
4,母乳外来との連携
助産婦さんの仕事のひとつとして、母乳相談や母乳マッサージがあります。母乳育児を支援していくためには、母乳をめぐる悩みやトラブルが発生したらすぐに相談や対処できる場所があるということが必要です。
1997年、横浜助産婦ネットワーク「SANBA」主催の学習会「助産に活かす東洋医学、お灸で安産をめざす」で、「ぷれる」が講習を担当しました。そのご縁で地域の助産婦さんとのネットワークができ、私の治療室には、母乳トラブルを繰り返す母親が紹介されてきます。
しかし、鍼灸治療が乳腺炎や母乳不足などに効果を発揮するということはほとんど知られていません。母乳外来だけでなかなか効果がみられない人には、鍼灸治療との併用をお勧めします。鍼灸治療は、からだが本来持つ自然治癒力に働きかけて諸症状を緩和します。
また、乳房に直接、鍼灸刺激をしなくても治療効果をあげることができます。毎週のようにトラブルを繰り返す人、乳房のしこりや痛みがなかなか取れない人などには特にお勧めです。
母乳トラブルに対してのケアを行いながら、母親の悩みや相談にものる助産婦さんは、治療のあいだに彼女らの気持ちを”癒し”ます。痛みや体調不良を訴えて治療に訪れる鍼灸院の患者さんにも、からだと心の”癒し”は同じように求められています。妊産婦さんにとって求められる存在、かけがえのない存在である助産婦さんと、信頼関係がある鍼灸治療院は、彼女らにとって癒しの場所に成り得ると確信しています。
5,地域での助産婦さんと鍼灸師の連携のメリット
東洋医学には、独特のからだの見方があり、その診断が治療に結びついています。妊婦さんが自分で探した三陰交のツボの位置と、鍼灸師が診る位置とではだいぶ違っています。ツボの位置だけでなく、各種症状も妊婦さん個人のからだから総合的に判断するのが望ましいことです。
また、妊娠週数によって妊婦さんの不定愁訴も変化してきます。鍼灸師は、常に、患者のからだ全体と症状との関わりを探り、体調を整えながら症状の緩和をはかっています。出産までの妊娠中毒症の予防や、流早産の防止にもツボ&お灸教室が役立つと考えています。
お灸は専門の灸師による治療法として、またセルフケアの方法として受け継がれたきたもので、一度ツボの位置を確認してもらった後は自分ですえることができます。他人に繰り返し行う行為は違法となりますので、鍼灸師にツボの位置を確認してもらった後、自分でお灸をすることをすすめます。それには、身近にいる鍼灸師をぜひ活用していただきたいと思います。妊婦さんの快適妊娠生活と満足のいく出産を可能にし、妊婦さんのニーズに適うことと思います。
6,手と手をつなぐために、女性鍼灸師フォーラム
インターネットやミニコミ誌あるいは個人的なネットワークにより、私たちの活動を知った全国各地の妊婦さんから、何処へ行って治療を受ければいいのか?の問い合わせがよくあります。しかし残念ながら各地域で活動する個人や自主グループを把握していません。また、何処へいっても必ず産科領域の治療が安心して受けられるのか今のところ判りません。
その期待に応えることができるように、1999年に女性鍼灸師フォーラムを発足させました。地域で活動する鍼灸師や自主グループのための学習会を提供していきます。すでに昨年から、産婦人科領域の学習会が始まっています。
一般の方々に鍼灸の有用性を理解してもらうためにも、情報が医療として納得できる根拠を持ち、かつある程度統一されていることが必要であると思います。妊産婦さんのだれもが安心して鍼灸治療を受けられるような状況を作るためには、鍼灸師自身の妊産婦さんへの知識や治療技術を向上させることはもちろん、各地域の女性鍼灸師の存在を明らかにすることも望まれています。
各地の鍼灸師が助産婦のみなさんのお手伝いができるよう基盤作りを始めています。地域の医療チームとして連携を取り合えるような関係作りを目指していきたいと思います。
最後に”癒し”のパラダイムにつながる「助産のパラダイム」は私たちが大切にしている「東洋医学のパラダイム」に共通することが多いのではないかと思っています。みなさんのお役に立てる鍼灸師がたくさん育つことを目指し活動を続けていきますので、よろしくお願いいたします。

女性鍼灸師フォーラム主催の今後の学習会予定
・不妊の鍼灸 平成12年5月21日(日)
場所 横浜市総合福祉センター・(JR桜木町駅下車徒歩1分)
・産科領域の鍼灸 平成12年12月10日(日)
場所 神奈川県民サポートセンター・(JR横浜駅下車西口5分)
文献
・矢野忠: 東洋医学の生命観からみた鍼灸医学の特徴について, 全日本鍼灸学会雑誌, 45ー4;225−231, 1995
・三砂ちづる:EBMの理論的根拠としての疫学, 助産婦雑誌, vol.53
No12;53−58, 1999
・石野信安:妊娠及び分娩に対する三陰交施灸の効果, 日本東洋医学雑誌, vol.6ー1;22−24, 1955
・形井秀一:, お灸について, 文化出版局編, 自然なお産がしたい, 35ー52, 文化出版局, 1988
|